Jul 4, 2015

雨ノ記憶という本つくりました。

6月に行われた吉祥寺「百年」の展示に合わせて、「雨ノ記憶」という絵本をつくりました。

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雨があがるまでに起きる様々なシチュエーションと、そこから甦る過去の記憶をアンカット袋綴じの本に仕上げました。
それぞれのシチュエーションのページを切り開くと眠っていた記憶が蘇ります。一冊の本で過去と現在が交差する仕組みです。
装丁の図案は「アメクジャク」を採用しました。
アメクジャクとは「孔雀の仲間で昔、安房国において雨天に限って、羽を広げる事からその名前が付けられました。雨あがりに羽毛を落とし、そこから花が咲くという民間伝承から、人生の転機や好転の象徴とされました。」 というような物語を本のコンセプトともに創作しました。
そのアメクジャクを図案をテキスタイルにして、布製本にしました。
このテキスタイルは、文中の蘇る記憶の中に登場する傘にも使用されており、実際に実物の傘も制作しました。
傘や制作についての詳しい内容は次回のブログに書こうと思います。

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アンカット状態の一枚の絵を動画編集しました。



下記は、袋綴じを切り開いた際の蘇る記憶の原案です。


「 雨ノ記憶 」

学校からの帰り道、突然の雨に降られた少女は足早にバス停へ急ぐ ―

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雨宿りもできずにバスを待っていると、後ろから傘をさしてくれる少年。
同じ高校に通う長馴染みの少年は、最近では会話する機会も少なくなっていた。
突然の事だったので沈黙が続いていたが、傘に当たる雨音が、少し居心地が悪い空気を消していた。

気づくと、遠方から水しぶきを上げながらバスがこちらへ向かって来ていた。

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バスへ乗り込む二人 ―

車内は梅雨の高い湿度と雨の匂いが充満していた。
濡れた服は肌に付着し、そこへクーラーの風が吹き付けて、より不快感を高めていた。
少女と少年はお互い何もなかったように背を向けて立っていた。

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バスは、林を抜け斜面を蛇行しながら下り、周囲が開けた場所を走っていた。
車窓から見える雨粒は目で確認できるほどで、その目線の先には湖が見えていた ―

湖では、雨粒が不規則に水面に落ち、波紋を広げてはその形を消していた。
その絶え間ない活動は雨粒の落ちる速度を徐々に遅くらせ、まるで時間を止まらせてるかのようにさえ感じさせていた。

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少女は遠い昔の記憶を思い出していた。少女と少年がまだ子供だった頃の事。
こんな雨の日に傘をさして二人で帰っていた頃の事を ―

やがて、バスは湖を抜け人里近くのバス停に止まろうとしていた。
停留所付近には見知らぬ少女が立っていた。

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幼馴染の少年は、バスを降り、その少女に近づいていった。
停留所から離れるバスの車窓からは、二人の後ろ姿が見えていた。